敷地は、多摩丘陵の端から多摩川沿いの平地部へと下る北斜面に位置し、昭和30年代に住宅地としてひな壇造成された区画である。斜面の軸線に沿って南北方向に長い敷地は、前面道路から約3m高い位置に宅盤があり、丘陵の緑に囲まれて北側へと眺望が開けて、新宿副都心のビル群から秩父の山並みまでを臨むことができる。
プログラムは、夫婦と息子1人の家族のための住宅である。妻の仕事場となる防音仕様のピアノ室を設けると共に、リビングを中心として豊かな共用部を持ち、将来の家族変化にも応じられるフレキシブルな住まい方を支える住宅が求められた。
既存の大谷石擁壁を置換するように、建物下部はRC造のボリュームとして、斜面を受け止める。そこに連鎖するボイドを設けて空間の抜けを作り、庭にある柿の木へ視線を取り結んだ上で、階段とともに上部へと立ち上がる縦動線とした。ピアノ室と各個室は、動線に房状に連なる構成とし、将来の変化にも対応できるよう配置した。上部には、主に共用部からなる木造平屋のボリュームが載るが、軒高7mの制限内で自由度のある屋根形状を可能とする「折れ垂木による屋根架構システム」を新規に開発し、天空光を取り入れて庭から視線をつなぐ、屈曲した形状の屋根をリビング上部に架けた。RC部の狭間から立ち上る動線空間は、西側の頂部から屋外階段を経て、北側のルーフテラスへと接続し、眺望とともに敷地の特徴を定位する場所となる。