野毛2丁目の住宅 設計趣旨

敷地は多摩川に程近い場所に立地し、従前の土地を5分割した南東側に位置する区画である。西側は隣地からハケ下の川へと地形が傾斜し、その先は多摩川の堤防沿いに低層の住宅地が広がっている。東側は前面道路を挟んでぶどう園が隣接し、その先には多摩川崖線の緑を臨むことができる。

プログラムは、夫婦と子供1人の家族のための住宅であり、それぞれの個室を確保した上で、外部の環境と繋がるゆとりある共用空間を設けることが求められた。

風致地区の規制により四周の敷地境界からセットバックが求められ、建物は中央部に配置せざるを得ないが、北のアプローチ側と南の庭側の双方にオープンスペースを残すことで、周辺環境との境界面を増やせるように計画した。玄関からは、和室越しに庭を垣間見ることができ、その傍らに位置する階段が西側の区画境界上の空間へと視線を開きながら上階へと誘っていく。上部から光が降り注ぐ階段室のまわりには3つの個室がコンパクトに配置され、上階には天井の高いリビングなどの豊かな共用空間が東側に接続されて、バルコニー越しに雲海のように広がるぶどう畑と崖線に残る緑を楽しむことができる。

スパイラル状に上昇する階段はさらに上へと向かい、階段室の南北に半層ずらして設けられた2つのルーフテラスへとつながっている。最上部の北側のルーフテラスは、周囲の建ち方を前提として隣地の旗竿部分や屋根越しに開放的に周辺環境へとつながり、多摩川の川辺の空間へとひろがる場所となっている。